私の中学時代の剣道は、
蝕刃の間から一足一刀の間へ、入り際を打たれないように入り、渡って(相手の竹刀を押さえつつ、間を詰めていく)間を詰め、あとは打って打って打ちまくる。
あるいは、面にいくぞと攻め、相手が面の勝負にこれば、出小手、抜き胴、返し胴。
あるいは、相手がこちらの出小手を予想して、面を攻めながらこちらの出小手を打つ竹刀を打ち落とす小手面を狙ってくるなら、それ以上の速い小手面。または、小手面を打たせそれに合わせた小手胴。
試合や稽古で、小技ができて、技の組み立ても考えて攻める、相手の裏をかき自分の打ちの裏をかく、相手にとってはやりにくかったと思います。
試合や稽古では、連打で勝負するんだということはいつも思っていましたが、それ以外でも心がけていたことがあります。
いわば、「試合の勝ち方」とでも申しましょうか
一つめは、
同じ攻め入りで何通りも決め技を変えて一本とれるようにしておくこと。
例えば、お互い一足一刀の間合いで向き合い、こちらが面を打っていったら、相手はそのまま手元をあげ、竹刀の表(真上から見て竹刀の左側)で面をよけられたとすると。
こんな場合は、同じ間合いから同じ入り方で面を打ちにいき(気持ちだけ)、途中から相手の手元があがったところを小手に落とす。あるいは胴を切る。
一つの同じ攻め口から何通りかの技を打つ。
野球でいうなら、同じフォームからストレート・カーブ・スライダーが投げられるような感じなのでしょうか。
野球より距離が近いので、早めに避けに回る相手は私にとっては得意な相手でした。
いつも試合を意識して、稽古の中で何度でも練習することが大切です。
二つ目は、
相手が打ってくるとき竹刀だけで相手の打ちを避けないこと。
できれば脚だけで避けるか、体捌きで避ける。
相手の打ってきた刀の下に体を置かない。
竹刀で相手の打ちを避けても、脚を同時に遣う。
必ず応じ技につなげる。
ということです。
相手から打ってきた時は避けるのではなく、応じ技を出すチャンス。
条件反射のように、何も考えなくても自動的に体が反応して応じ技を出すというレベルまで、自分の得意な技は徹底的に反復練習しておく。
試合でも稽古でも、避けるだけの動きにならないこと、かならず応じ技につなげること。
応じ技は狙って相手をはめていくのも一つの方法だけど、反射的に、知らないうちに打っていたというレベルまで徹底的に反復練習すること。
いつも試合を想定し稽古をし、試合の時には稽古でやったことを自信にして思う存分好きなように、自分の剣道をする。
1,相手が何もしなければ、こちらから仕掛け、渡って連打に持ち込みどこからでも一本を取る。
2,相手が仕掛けてきたときは、応じ技のチャンス。
3,鍔迫り合いになったら、チャンス。
あと試合の組み立てを考えるとき、
相手がこう来たら・・・、○○する。
という考えは負ける剣道です。
あくまでも、
自分がこうしたら、相手は○○する、だからそこをこうやって決める。
というように、
必ず自分が主役になるよう考えます。
そして、主役の自分が必ず勝つストーリーで相手と戦う。
ハッピーエンドです。
こんな風に考えて剣道を、試合を、稽古をしていました。
今でも、中学生を指導していて思う試合の必勝法は、
1,大きな声を出すこと
2,連打を狙うこと
3,自分の苦手なこと、こちらが不利になること、相手が有利になることはしないこと
大きな声で連打が出ていると、試合の運はこちらに傾いてきます。
剣道の試合・審判規則によると
「有効打突は、充実した気勢、適正な姿勢をもって、竹刀の打突部で打突部位を刃筋正しく打突し、残心あるものとする。」(以上、全日本剣道連盟 試合・審判規則より引用)
とあります。
剣道で一本になる打ちは、大きな声・鋭い声・気迫のこもった声で、正しい姿勢で、竹刀の打突部(中結いから先の部分)で相手の打突部位(面・小手・胴・突き)を弦の反対側で、刃筋正しく打って、打ったあとも気を抜いていないことが必要です。
中学生向きに簡単に言うと、
「大きな声で、面・小手・胴を正しく打って、打ったあとも気を抜かないこと。」
第一の条件、声が大きいこと。
いつもの稽古も必死に声を出すようにやっていると当たり前ですが、声は出ます。
出ないと思い込んでいる人は、出ないと思っているから出ないだけ。
第二、相手よりたくさん打つ、どんどん打つ、当たるまで打つ。
相手が打ってこなければ打つ、打ってきたら打つ、避ければ打つ、外れたら打つ。
いつも、自分の限界まで必死になって打って打って打ちまくる練習をするので、できるようになる。
第三、打ったあとは絶対気を抜からない。
当たったと思っても、自分ではやめない。
審判に止められるまで、次の技を打つ。
面・小手・胴に当たっても当たらなくても、自分の打った打ちは一本決めるつもりの打ちをする。
それだけのことをするだけ。
何かに記録が残っているわけではないですが、中学時代の私は一年間で、一つか二つ負ける程度だったと思います。
私たちが中学生の頃は、中体連の団体戦の全国大会はありましたが、個人戦はありませんでした。
私たちの中学は部員が多く、団体戦の選手以外も稽古を一所懸命やっていたので、先生の方針で、団体戦に出た選手は個人戦には出ない。ということになっていました。
私たちもそれに納得し、私が中学時代に唯一出場した個人戦は、三年生の時の段別選手権のみです。
結果は三位でしたが、初めて出る中学の個人戦でしかもライバルの松葉を押さえて、選手に選んでいただいたので、何が何でも勝ち上がるんだという気持ちでした。
優勝したのは和知中学の長谷川君というこで、私は準決勝でこの選手に負けました。
長谷川君は道場連盟の個人戦で全国準優勝だったと聞いています。
さて、団体戦の方ですが、本当に私は負けるということがほとんどありませんでした。
大きい声で、スピードがあって、連打・あと打ちなど、打って打って打ちまくる。
このスタイルが自分に合っていたと思います。
声が大きくて、スピードがあって、相手より打ちまくって・・・。
相手から取ってくる技の1/3~半数は実は打突部位を外れた打ちでした。
しかし、剣道で一本になるための、条件のうち一つの条件「打突部位を」という部分がほんのちょっと、数センチあるいは十数センチ、数十センチずれているだけで、一本の範疇だったのです。
一本というのは審判の主観による総合評価なので、すべての条件が完璧に満たされていなくても、一本になります。
試合では自分が主役になり、相手を倒すヒーロー物語をハッピーエンドで終える。
それには、きちんと限界までやる稽古で繰り返し自分を追い込み、頼れる自分になっておく。
楽して勝つことはできません。
私はこのあたりものすごく、剣道って文学的だと思います。