館長の剣道修行(15) 信州大学剣道部 その4 新入生歓迎合宿

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今となっては、ゴールデンウイークの前だったのか後だったのか、はっきりと記憶はありませんが、前回の新入生歓迎コンパよりも後に、「新歓合宿」というものがありました。

大学内にある合宿所に寝泊まりして、授業開始前と普段の放課後の稽古を行うというものです。大学内の合宿施設は布団代がかかるくらいで、ごく安く泊まれるので、この後もよく利用しました。

初日は放課後の稽古からのスタートだったと思います。稽古をした後みんなで大学生協の食堂で夕飯。あらためての自己紹介や剣道部としての心構え、稽古の取り組み方、質疑応答が行われ、そのご自由時間でした。

先輩の中には、自分の下宿に帰って勉強する人、トランプなどを始める人、酒とつまみを買ってきて酒盛りを始める人などまちまちで、私や吉玉君は迷わず酒盛りに加わりました。

11時には就寝時間となり、その夜はおとなしく眠りました。

2日目、朝稽古を1時間半ほどやって、大学生協食堂で朝食をとり、9時からの授業に出るもの、そのまま生協食堂で話し込むもの様々でした。

そして、放課後の稽古。新歓合宿は稽古についてこられるように基礎体力をつけ、基本を会得するという名目なので、それほどきつい稽古ではありませんでした。

放課後稽古の後はすぐに合宿所でミーティング、そして各自で夕食のあと再度集合でした。合宿所に戻ると、なぜか他地区の先輩方が集まっていたのでした。

信州大学は県内に広く学部が散っているので、平日の稽古は地区ごとに行い、このころはまだよくわからなかったのですが、全員が顔をそろえての稽古は月に1回くらいです。

この日は合宿中とはいえ普通に授業のある平日なのに、なぜかほとんどの先輩が顔をそろえて集合したのでした。

当時部員は総勢100名を超えていたと思います。素直な私たちは、新入生のためにわざわざ、おそらく明日の授業を休んで、こんなに多くの先輩方が集まってくださったのだと、いたく感激しました。

このとき、新歓コンパのようになぜか二年生だけがニヤニヤしているような気がして、妙な胸騒ぎもありました。就寝時間となり先日よりも早く、疲れているだろうからさっさと寝るよういわれました。やはり何かおかしいなと思いながらも眠ったようです。

 

 

ガンガン。

金属製のバケツをたたくような音で起こされました。

「火災発生、火災発生、直ちに避難せよ。靴を履きグランドに集合。」

本当の火事なのか、避難訓練なのかよくわからないまま靴を履き、走って合宿所のすぐ隣にあるグランドに整列しました。

 

2年生の

「ここに整列しろ。」

という声に従って私たちは整列しました。

 

「ドクトルまんぼう青春期」にあった「ストーム」というやつか?

そういえば、まんぼう先生は旧制松本高等学校だった。今の信州大学そのものじゃないか!!

その頃、まんぼう先生が寮生活をした、思誠寮は鉄筋コンクリートにはなりましたが残っていました。

思わぬ展開に、心の中ではうれしくなってしまいました。

 

2年の先輩から、自己紹介をするよう促され順に大きな声で自己紹介。声が小さいと何度でもやり直しです。合格すると、一升瓶を手渡されラッパ飲みで日本酒を飲みます。日本酒は一本だけでなく、何本かあるようでした。

「先輩方がおまえらに用意してくださったありがたい酒だ。みんなが自己紹介するまでにすべて飲み干せ。」

「やったー、今日は日本酒だ。」

新歓コンパでは、泡盛をどんぶりに注がれ大変なことになったけれど、日本酒はうまい。コレはラッキー。

 

新歓コンパの時の光景を思い出すと、たぶんみんなはそんなに飲めません。飲めるとしたら、私と吉玉と直敬しかいません。

「がんばるしかない。」

ひとりで勝手にそう思い込んで、暗いのでよくわかりませんでしたが、恐らく一升瓶の半分ほども飲んだような気がします。小さな声で先輩が

「そんなに飲まなくて良いぞ。」

といっていたけれど、もう遅い。胃まで日本酒が落ちてしまった後でした。

 

みんなに酒が回っても、一升瓶にはまだ少し残っていたようです。

「誰か飲みたいものはいるか?」

手を挙げようか迷っていると、吉玉と直敬がすかさず手を挙げ、あっという間に二本の一升瓶を空にしてしまいました。

 

この後、先輩方の激励の言葉が続き、終わりかと思ったところで、

「これから4年の先輩と、50m走の勝負をやる。負けたものは明日の朝の稽古で掛かり稽古だ。」

私は短距離ならば多少自信があって、なんとかなるかなと高をくくっていました。

 

全員が横一線に並んで

「よーい、ドン」

圧倒的に速い。4年生が。お話になりません。

 

スタートダッシュが違う。その後の伸びが違う。異次元の世界でした。走り終わって、ゼイゼイ息をしていると、さっき飲んだ日本酒がグラグラ回ってきました。

後で聞いた話ですが、その先輩は大学に入ってから初心者で剣道を始められたそうですが、なんと、高校時代は京都府代表の短距離が専門の国体選手だったそうです。だから、ちょっと速いぐらいでは全くお話にならないのでした。

 

その後は大学の近くの居酒屋へ繰り出して飲み会となりました。楽しいけれどハードなストームでした。

そしてバカなことに、その後飲み過ぎて翌日大変なことになったのです。

 

さて、翌日です。

先輩にたたき起こされ。意識朦朧とした状態で剣道着・袴に着替え体育館へ。

昨日の記憶は居酒屋へ繰り出し一杯飲みかけたところで飛んでいました。

 

フラフラのまま切り返し、打ち込み。

胃から苦くて酸っぱいものがこみ上げてきて、面ひももほどかず無理矢理かなぐり捨て、トイレに猛ダッシュ。

 

胃が空っぽになるまでもどし、水を飲みさらにもどしました。

新歓コンパの翌日は、昼まで寝ていましたが、

今回は酒の残った状態での稽古です。

これまでにない苦しみを堪能しました。

 

もちろん、吐き気が収まったら稽古に復帰です。

しかし、頭はまだ意識朦朧です。

時間が過ぎることだけをただひたすらまって、面を打ちこみ、飛ばされ、追いかけ、よれよれの掛かり稽古と打ち込みでした。

吐いて以降は、道場で面を打ちながら泳いでいたような気がしますが、記憶がありません。

 

新入生歓迎合宿でした。